近年の災害は規模・頻度ともに増し、事業の中断が一気に経営を揺さぶる時代になりました。それでも、中小企業の多くが十分な備えを持てていないのが現状です。
こうしたリスクに備えるために国が用意したのが事業継続力強化計画(ジギョケイ)認定制度です。簡易なBCPとして取り組みやすく、税制優遇や補助金加点など、経営に直結するメリットも大きい制度です。
この記事では、事業継続力強化計画(ジギョケイ)のポイントを判りやすく紹介します。
はじめに:なぜ事業継続力が重要なのか
日本では近年、地震・豪雨・台風などの自然災害が全国各地で頻発し、事業の中断が「いつ起きてもおかしくない」状況になっています。実際、令和元年以降、40都道府県で災害救助法が適用されており、地域や業種に関係なく、すべての企業が被災リスクを抱えています。
しかし一方で、中小企業の多くが防災・減災対策に未着手という調査結果があります。
経営者にとって重要なのは、災害そのものを防ぐことではなく、災害が起きても事業を止めない仕組みを持つことです。
そのために国が用意したのが、簡易なBCPとして取り組みやすい「事業継続力強化計画(ジギョケイ)」認定制度です。
税制優遇や補助金加点など、経営に直結するメリットも大きく、全国で9万件以上の事業継続力強化計画が認定されています。
事業継続力強化計画(ジギョケイ)とは
事業継続力強化計画(通称:ジギョケイ)は、自然災害などの緊急事態に備えて、中小企業が「事業を止めないための事前対策」をまとめるための制度です。
簡易版BCP(事業継続計画)という位置づけで、経済産業大臣が認定する制度です。
中小企業向けに“取り組みやすく設計されたBCP”
本格的なBCPは内容が高度で、策定に時間や専門知識が必要です。
そのため、中小企業では「作りたいが難しい」「人手が足りない」といった課題が多く、策定率も大企業に比べて低い状況が続いています。
事業継続力強化計画は、こうした課題を踏まえてA4で4〜5枚程度のシンプルな構成に整理されており、初めて防災対策に取り組む企業でも無理なく作成できるようになっています。
単独型と連携型の2種類
事業継続力強化計画には、次の2つのタイプがあります。
- 単独型
自社だけで策定する計画。最も一般的な形式。 - 連携型
複数の中小企業や大企業、協同組合などが連携して策定する計画。
災害時の相互支援や代替生産、情報共有など、サプライチェーン全体の強靱化を目的とする。
企業規模や業種に関係なく、どちらも認定の対象になります。
認定件数は累計9万件超
制度は令和元年にスタートし、すでに9万件以上の事業継続力強化計画が認定を受けています。
災害の激甚化や能登半島地震などを契機に、認定件数は年々増加しています。
計画に盛り込む内容
事業継続力強化計画は、災害時に事業を守るための基本要素を整理する構成になっています。
- 災害リスクの確認(ハザードマップ等)
- 発災時の初動対応(安否確認・被害把握など)
- ヒト・モノ・カネ・情報の事前対策
- 訓練・教育・計画の見直し方法
- 必要資金と調達方法
「何を備えておけば事業を止めずに済むか」を、経営者自身が明確にできる内容です。
制度が求められる背景
事業継続力強化計画(ジギョケイ)が注目されるようになった背景には、近年の災害傾向と中小企業の脆弱性が深く関係しています。経営者にとって「事業を止めない仕組み」を持つことが、これまで以上に重要な経営課題となっています
災害の激甚化と全国的な広がり
令和元年度以降、災害救助法が適用された都道府県は40に達し、豪雨・台風・地震・大雪など、種類も規模も多様な災害が全国で発生しています。
「どこで起きてもおかしくない」状況が続いており、地域性や業種による安全地帯はほぼ存在しません。
被災すると営業停止が長期化しやすい
災害による物的損失が大きいほど、事業の再開までに時間がかかる傾向があります。
営業停止が長引けば、売上の減少だけでなく、取引先の離脱やサプライチェーンの寸断にもつながり、経営への影響はさらに深刻化します。
中小企業の場合、代替拠点や余剰人員の確保が難しく、復旧の遅れがそのまま経営リスクに直結します。
防災・減災対策の遅れ
一方で、中小企業・小規模事業者の多くが、防災・減災対策に十分取り組めていないという現状があります。
理由としては、
- ノウハウ不足
- 人材不足
- 時間が取れない
- 実践的な計画に落とし込むのが難しい
などが挙げられます。
結果として、災害が起きた際に「何をすべきか分からないまま混乱する」ケースが多く、被害が拡大しやすくなっています。
サプライチェーン全体の強靱化が求められる時代
災害は自社だけの問題ではありません。
取引先や協力会社が被災すれば、自社の事業にも影響が及びます。
能登半島地震でも、地域の企業が連携して復旧を進めたことで、事業再開が早まった事例が見られました。
企業単体ではなく、地域・業界・サプライチェーン全体で強靱化を進める必要性が高まっています。
これらの背景から、中小企業が取り組みやすく、実効性のある防災・減災対策として整備されたのが事業継続力強化計画(ジギョケイ)認定制度です。
認定を受けるメリット
事業継続力強化計画(ジギョケイ)は、単なる防災対策の整理ではありません。
認定を受けることで、経営に直接プラスとなるメリットが複数用意されている点が大きな特徴です。
「備え」と「経営メリット」を同時に得られる制度として、多くの企業が活用しています。
防災・減災設備への税制優遇(特別償却)
事業継続力強化計画の認定を受けると、防災・減災設備の導入に対して特別償却が適用されます。
対象となる設備の例
- 防水板
- 排水ポンプ
- 自家発電設備
- 非常用通信機器
- 耐震補強関連設備 など
特別償却により「必要な設備を導入しやすくなる」ことが経営者にとって大きなメリットです。
低利融資・信用保証枠の拡大
認定事業者は、以下の金融支援を受けられます。
- 日本政策金融公庫による 低利融資(BCP資金)
- 信用保証協会の 保証枠拡大
補助金審査の加点
多くの中小企業が活用する補助金(ものづくり補助金・事業再構築補助金など)で、事業継続力強化計画認定事業者は審査時に加点されます。
事業計画の信頼性が高いと評価されるため、新規投資や設備導入を検討している企業にとって大きな追い風になります。
認定ロゴマークの使用
認定を受けた企業は、「事業継続力強化計画 認定ロゴマーク」を使用できます。
- ホームページ
- 名刺
- 会社案内
- 求人情報
- 取引先への説明資料
などに掲載することで、「災害に強い企業」「リスク管理に取り組む企業」として信頼性を高めることができます。
取引先や金融機関、採用活動においてもプラスに働く要素です。
事業継続力の向上そのものが最大のメリット
制度のメリットは税制や補助金だけではありません。
事業継続力強化計画を策定することで、
- 災害時の初動対応が明確になる
- 従業員の安全確保が迅速にできる
- 事業停止期間を短縮できる
- サプライチェーンへの影響を最小化できる
- 経営者自身が「事業を守るための判断軸」を持てる
といった、企業の本質的な強靱化につながります。
災害は避けられませんが、被害を最小限にし、事業を守ることはできる。
そのための実効性ある仕組みが事業継続力強化計画です。
制度の最新アップデート(2026年度の見直し)
事業継続力強化計画(ジギョケイ)は、制度創設から5年以上が経過し、これまでの実施状況を踏まえて、見直しが行われています。
企業の取り組み状況をより正確に把握し、計画の質を高めることを目的としたアップデートが進められています。
実施状況報告書の細分化
実施状況報告書の内容が細分化され、実施状況を評価することになりました。
また、今後の対応方針を見直す形式になりました。
これにより、
- 計画が“作っただけ”で終わらない
- 実際の取り組み状況が把握しやすくなる
- 経営者自身が進捗を管理しやすくなる
といった効果が期待されます。
訓練・教育の実施予定月、計画の見直し予定月、社内通知の記載が必須化
平時の取組として、訓練や教育の実施予定月、計画の見直し予定月、及び、社内通知の記載が必須となりました。
これにより、
- 訓練の実施が習慣化しやすい
- 従業員の防災意識が向上する
- 初動対応の精度が高まる
など、計画の実効性が大きく向上します。
リスクファイナンス判断シートの導入
災害時の資金確保は、事業継続において最も重要な要素のひとつです。
そこで新たに、「どの災害に対して、どの程度の資金が必要か」を簡易に算出できるリスクファイナンス判断シートが公開されています。
認定事業者情報の拡充
認定事業者の情報公開が拡充され、取引先や金融機関が「防災に取り組む企業」をより把握しやすくなります。
これは、
- 企業の信頼性向上
- 取引先からの評価向上
- 採用活動でのアピール
にもつながるため、経営面でのメリットが広がります。
制度全体の「質」を高める方向へ
今回の見直しは、単に書類を増やすためのものではなく、計画の実効性を高め、企業の強靱化をより確実に進めるためのアップデートになっています。
行政書士が支援できるポイント
事業継続力強化計画(ジギョケイ)は、中小企業が自力で取り組むことも可能ですが、実際には「何から始めればいいか分からない」「計画をどう書けばよいか迷う」という声が多くあります。
行政書士は、制度の理解から計画書の作成、申請までを一貫してサポートできる専門家です。経営者が本業に集中しながら、効率的にジギョケイを進められるよう支援します。
ハザードマップの確認とリスク整理
災害リスクの把握は計画の基礎となる部分です。
行政書士は、
- ハザードマップの読み解き
- 想定すべき災害の選定
- ヒト・モノ・カネ・情報への影響整理
をサポートし、計画の方向性を明確にします。
初動対応の整理と実効性のある手順づくり
災害発生直後の初動対応は、事業継続の成否を左右する重要な要素です。
行政書士は、企業様とのヒアリングを通じて、
- 安否確認の方法
- 被害状況の把握手順
- 緊急時の連絡体制
- 避難行動の流れ
などを整理し、実際に使える初動対応手順を作成します。
事前対策の具体化(ヒト・モノ・カネ・情報)
事業継続力強化計画では、事前対策を「ヒト・モノ・カネ・情報」の4つに分けて整理します。
行政書士は、企業の現状を踏まえながら、
- 必要な設備や備蓄の選定
- 情報バックアップ体制の構築
- 資金調達方法の検討
- 従業員教育の計画づくり
など、実効性のある対策に落とし込む支援を行います。
計画書の作成と申請手続きのサポート
ジギョケイの申請書はA4で4〜5枚程度ですが、「書類作成が負担」という声があります。
行政書士は、
- 計画書の構成整理
- 必要事項のヒアリング
- 文書作成
- 経済産業局への申請サポート
まで一貫して対応し、スムーズな認定取得を支援します。
訓練・見直しの継続支援
事業継続力強化計画は作って終わりではなく、訓練・教育・見直しを継続することで強靱性が高まります。
行政書士は、
- 実施時期の管理
- 計画のアップデート
など、継続的な運用支援も行うことができます。
行政書士の支援を活用することで、「本業に負担をかけず、確実に事業継続力を高める」ことが可能になります。
ジギョケイは“事業を守るための最初の一歩”
自然災害が全国で頻発し、事業の中断が経営に直結する時代において、「事業を止めないための備え」を持つことは、すべての中小企業にとって必須の経営課題になっています。
事業継続力強化計画(ジギョケイ)は、その第一歩として最も取り組みやすい制度です。
- 災害リスクを整理し、初動対応を明確にできる
- ヒト・モノ・カネ・情報の事前対策を体系的に整えられる
- 税制優遇・補助金加点・低利融資など、経営メリットが大きい
- 取引先や金融機関からの信頼性向上につながる
- 訓練や見直しを通じて、企業の強靱性が継続的に高まる
ジギョケイは「難しいBCPの簡易版」ではなく、中小企業が無理なく始められる“実効性のある防災・減災対策”です。
経営者として、会社と従業員、そして取引先を守るために、ジギョケイの活用は非常に有効な選択肢だと思います。
まずは自社の災害リスクを確認し、できるところから備えを進めてみてください。
