令和8年8月4日、出入国在留管理庁から「永住許可に関するガイドライン改定(案)」と「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)」が公表され、あわせてパブリックコメントの募集が始まりました。
永住制度は多くの外国人や関係者にとって重要な制度であり、今回の改定案はその審査基準や取消事由に関する内容が整理・明確化されています。
本記事では、行政書士として、これらのガイドライン改定(案)の概要を資料に忠実にまとめ、最後にパブリックコメントの募集についてご案内します。
永住許可に関するガイドライン改定(案)の概要
今回、公表された「永住許可に関するガイドライン改定(案)」は、永住者の位置付けをより明確にし、永住許可の審査基準を具体化する内容となっています。
以下で、主な改定ポイントを項目ごとに整理します。
永住者の位置付けの明確化
永住者は、活動や在留期間に制限がなく、生涯を日本で過ごすことが想定される最も安定した在留資格です。
そのため、永住許可の判断にあたっては、特に慎重な審査が求められることが明確に示されました。
素行善良要件(変更なし)
素行善良要件については、従来の考え方が維持されています。
- 法令を遵守していること
- 日常生活で社会的に非難される行為がないこと
- 違法行為や迷惑行為を繰り返していないこと
これらが引き続き審査の対象となります。
独立生計要件の見直し
今回の改定案で大きく整理されたのが、独立生計要件です。
「日本人と同等水準以上の経済条件」を求めるという考え方が明確化され、収入や年金に関する具体的な基準が示されました。
収入基準の具体化
- 世帯人数に応じた「日本人世帯の平均収入」を基準とし、それを上回る水準に継続して達しているかを確認
- 世帯年収は同一生計世帯の収入を合算して判断
- 就労を目的としない在留資格(例:家族滞在)の収入は合算対象外
- 海外に住む扶養親族(同居していない扶養親族含む)も世帯人数に含める
年金の新たな評価項目
- 将来の年金受給見込額が、一定の基準(厚生年金に30年間加入した場合の水準)に達しているかを確認
- 基準に満たない場合は、金融資産による補填を考慮
- 若年者ほど補填資産の基準額は低く設定
- 配偶者がいる場合は受給見込額を合算して判断
国益要件の強化
国益要件については、従来よりも踏み込んだ内容が明記されました。
国益の考え方
「国益に反しない」だけではなく、「積極的かつ具体的に日本国に利益をもたらすこと」が求められるとされています。
公共の負担とならないこと
独立生計要件が免除される類型(日本人の配偶者等、難民等)であっても、公共負担のおそれがあれば消極的に評価されます。
日本語能力(新規)
- CEFR B1相当の日本語能力が求められる
- 高度人材や永住者の子など、一部は対象外となる場合あり
日本の制度・ルールの理解(新規)
- 生活・就労に関する基本的な制度やルールを理解しているかを確認
- 理解が乏しい場合は消極評価
子の就学(新規)
学齢期(義務教育期間)の子を養育している場合、子が小学校・中学校に通学していないと消極評価となります。
その他の判断要素
外国人共生社会の施策への寄与など、幅広い観点から総合的に判断されます。
原則10年在留の特例の見直し
永住許可の在留期間要件に関する特例の一部が見直されました。
日本人・永住者の配偶者等:従来:婚姻3年+在留1年 → 改定案:婚姻5年+在留3年
適用時期
- ガイドライン全体:令和9年4月から適用
- 収入に関する要素:令和8年10月から先行施行
永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)の概要
今回、公表された「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)」は、永住者に対して新たに追加された取消事由の解釈や運用の考え方を示すものです。永住者は在留期間の更新が不要であるため、永住許可後に要件を満たさなくなるケースへの対応を明確化する目的で策定されています。
このガイドラインでは、取消事由の具体的な判断基準、想定される事例、そして取消しに至るか職権変更にとどまるかの判断方法が整理されています。
新たに追加された取消事由
永住者について次の3つの取消事由が新たに追加されました。
- 入管法上の義務違反
在留カードの携帯義務や提示義務、偽造カードの行使禁止など、入管法で定められた義務を遵守しない場合。 - 故意による公租公課の不払い
所得税・住民税・年金保険料など、公租公課を「支払義務を認識しながら、あえて支払わない」場合。 - 特定の刑罰法令違反による拘禁刑
窃盗・詐欺・恐喝・殺人・危険運転致死傷など、一定の罪により拘禁刑(執行猶予を含む)に処せられた場合。
これらは永住者の在留状況が著しく不適当と判断される場合に適用されるものです。
各取消事由の解釈と具体例
入管法上の義務違反
義務を履行しない場合が対象となります。病気や災害など「正当な理由」がある場合は該当しません。
【該当する例】
- 在留カードの有効期間更新を行わず、携帯義務にも違反している
- 在留カードの提示を求められて拒否した
- 偽造在留カードを作成しようとして未遂に終わった(※完遂した場合は退去強制手続)
- 不法入国者をかくまおうとして未遂に終わった(※完遂した場合は退去強制手続)
故意による公租公課の不払い
支払義務を理解しながら、あえて支払わない場合が対象です。
【該当する例】
- 催告や滞納処分を受けても支払う意思を示さない
- 分納・猶予の約束を繰り返し守らない
- 脱税で有罪判決を受けた
- 財産を隠して徴収を妨げた
- 法人の代表者として、故意に法人税等を支払わない
ただし、以下の場合は対象外となります。
- 病気・災害・失業など、やむを得ない事情で支払えない
- 分納や猶予措置を受け、支払う意思を示している
- 給与から控除されているのに、企業側が納付していない
特定の刑罰法令違反
対象となる罪は、刑法の窃盗、詐欺、恐喝、殺人の罪などや自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律に規定されている危険運転致死傷の罪など一定の罪に限られています。
いずれも故意犯を対象としていて、刑期の長短を問わず、拘禁刑の執行が猶予された場合も含まれます。
職権変更と取消しの判断
取消事由に該当した場合でも、必ずしも直ちに永住資格が取り消されるわけではありません。
職権変更
「引き続き在留することが適当でない」とまでは言えない場合、永住者から他の在留資格(多くは定住者となる見込み)へ職権で変更されます。
その後、在留期間更新の中で状況が確認されます。
永住資格の取消し
次のような場合は、取消しが想定されます。
- 今後も義務を履行する意思がないと認められる
- 公租公課の滞納が社会通念上看過できない
- 脱税など悪質な行為がある
- 犯罪傾向が進んでいると判断される
取消しに至るかどうかは、違反の態様、経緯、本人の言動、在留状況などを総合的に判断するとされています。
国・自治体による通報制度
入管法には、国や地方公共団体の職員は、職務の中で取消事由に該当すると考えられる永住者を知った場合、入管へ通報することができる、という規定があります。
- 通報は義務ではなく任意
通報は「できる」規定であり義務ではありません。守秘義務を解除するための法的根拠として位置付けられています - 通報後の流れ
入管が事実調査や本人への意見聴取を実施し、その上で、取消事由に該当するか、取消しが適当かを判断します。
通報があっただけで直ちに取消しとなるわけではなく、個別事情を踏まえた慎重な運用が行われるとされています。
パブリックコメント募集について
今回のガイドライン改定案については、あわせてパブリックコメント(意見募集)が実施されています。
パブリックコメント制度は、行政機関が新しい制度や基準を定める際に、広く国民から意見を募る仕組みです。誰でも提出でき、専門家である必要もありません。
パブリックコメント制度とは
パブリックコメントは、行政手続法に基づく意見募集制度で、次のような目的があります。
- 行政が制度を決定する前に、国民の意見や情報を取り入れる
- 手続の透明性を高める
- 多様な視点を反映し、より適切な制度設計につなげる
提出された意見は、すべて行政機関が確認し、最終的な案を作成する際の参考資料として扱われます。
募集内容と提出方法
永住許可に関するガイドライン改定(案)、永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)のどちらも募集対象になっています。
提出は、電子政府の総合窓口(e-Gov)からオンラインで行います。
詳細は法務省のパブリックコメントページをご確認ください。
意見の書き方
形式に厳しい決まりはなく、率直な意見を提出できる仕組みです。
意見の書き方のポイントを以下にまとめます。
- 気になった点や疑問点を、簡潔にまとめる
- 必ずしも専門的な内容である必要はない
- 個人の立場から見た感想や懸念でも構わない
- 具体的な経験に基づく意見は参考情報として有用
まとめ
今回公表された2つのガイドライン改定(案)は、永住許可の審査基準と、永住者の在留資格取消しに関する運用をより明確にする内容となっています。永住者は在留期間の更新が不要で、長期にわたり日本で生活することを前提とした在留資格であるため、許可時・許可後の双方において、適切な在留状況が求められることが改めて整理された形です。
永住許可の審査では、収入・年金・日本語能力・制度理解など、生活基盤に関わる要素が具体化され、取消制度では、義務違反や公租公課の不払いなどに対する判断基準が示されました。これらは、永住申請を検討している方、外国人雇用に関わる企業、自治体の担当者など、多くの関係者にとって重要な情報となります。
また、現在はパブリックコメントが実施されており、制度案について意見を届けることができる機会が設けられています。永住制度は多くの方の生活に関わる制度ですので、もし今回の改定案について感じるところがあれば、この機会に意見を提出してみるのも良いかもしれません。
今後も入管制度は社会状況に応じて見直しが続く可能性があります。最新情報を把握しつつ、必要に応じて専門家へ相談することで、より適切な在留手続につながります。
