成年後見制度・遺言・任意後見が大きく変わる ~2026年民法改正のポイント~

法律知識

2026年6月17日、民法等の一部を改正する法律が国会で可決・成立しました。
特に注目すべき点は、次の3つです。

  • 成年後見制度の抜本的な見直し
    後見開始・保佐開始の審判が廃止され、補助制度が中心的な役割を担う仕組みに再構築されました。
    さらに、特定補助人制度の創設や、補助人の義務・報告制度の強化など、制度全体が大きく変わります。
  • 新しい遺言方式「書面保管証書遺言」の創設
    遺言書を法務局で保管する制度が拡充され、遺言の作成・保管の方法がより柔軟で利用しやすくなりました。
  • 任意後見契約に関する見直し
    任意後見開始の審判が新設され、複数の任意後見契約がある場合の効力発生順序の合意など、制度の運用がより現実的なものに改められています。

これらは、以前、法務省令が閣議決定された際にも取り上げた話題ですが、改めて整理して解説します。
詳しくは、過去の記事も参考にしてみてください。

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成年後見制度の見直しと特別代理人の創設

2026年の民法改正では、判断能力が不十分な人を支える仕組みが大きく変わりました。
これまで「後見・保佐・補助」という三つの類型がありましたが、今回の改正ではその構造が大きく見直され、より柔軟で本人の状況に合わせた支援ができるように再編されています。

後見・保佐の廃止と補助への一本化

これまでの成年後見制度では、判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の三つの類型が用意されていました。
しかし、本人の状態に合わせた柔軟な運用が難しいという課題が指摘されていました。

今回の改正では、「後見開始」および「保佐開始」の審判が廃止され、補助制度が中心的な役割を担う仕組みへと再構築されました。
これにより、判断能力が不十分な人の支援は、補助の枠組みの中で行われることになります。

補助制度の対象が大幅に拡大

従来の補助制度は、判断能力の低下が比較的軽度な場合に利用される制度でした。
しかし改正後は、「精神上の理由により事理を弁識する能力が不十分な人」すべてが補助制度の対象となります。

補助人に与えられる権限の拡充

補助制度が中心となることに伴い、補助人に与えられる権限も整理・拡大されました。
家庭裁判所は、必要に応じて次のような権限を補助人に与えることができます。

  • 法律で重要とされる財産行為を行う際に補助人の同意を必要とすること
  • 特定の法律行為について補助人に代理権を与えること

これにより、本人の判断能力の程度に応じて、必要な範囲で支援を受けられるようになります。

新たに創設された「特定補助人」

今回の改正で新たに導入されたのが、「特定補助人」 という仕組みです。
特定補助人は、本人が常に判断能力を欠く状態にあり、特に支援が必要と認められる場合に選任されます。

特定補助人には、通常の補助人よりも強い権限が与えられます。
主なものは次のとおりです。

  • 本人が行った重要な財産行為を取り消すことができる
  • 本人に対する意思表示を受け取ることができる
  • 本人の財産を守るための行為を行うことができる

従来の成年後見制度における「成年後見人」に近い役割を、補助制度の中で担うイメージです。

意思表示の受領のための「特別代理人」の創設

今回の改正では、補助制度とは別に、「意思表示の受領の特別代理人」という新しい制度も設けられました。
これは、契約などの相手方が判断能力を欠く状態にあり、意思表示を受け取る人がいない場合に、家庭裁判所が特別代理人を選任する仕組みです。

特別代理人は、本人に代わって意思表示を受け取るほか、必要があれば補助開始の申立てなども行うことができます。
この制度は、本人の保護だけでなく、取引の相手方の利益を守る役割も果たします。

補助人の義務と監督の強化

補助制度が中心となることから、補助人に求められる義務も明確化されました。

  • 本人の意向を把握し、尊重する義務が明文化された
  • 本人の利益のために必要がある場合、補助人を解任できる制度が整備された
  • 補助人は年1回、本人の状況を家庭裁判所に報告する義務を負う
  • 家庭裁判所は、必要がなくなったと判断すれば審判を取り消すことができる

補助に関する審判の終了

補助制度は、本人の状態に応じて柔軟に開始されるだけでなく、必要がなくなった場合には終了できる仕組みも整備されています
補助開始の審判は、以下のような状況の変化に応じて家庭裁判所が取り消すことができます。

  • 本人の判断能力が回復した場合
  • 補助人の同意権や代理権が不要になった場合
  • 特定補助人を置く必要がなくなった場合

また、補助人や特定補助人が持つ個別の権限(同意権・代理権・取消権など)についても、必要性がなくなれば個別に終了させることが可能です。
これにより、本人の状態に合わせて制度を柔軟に見直すことができ、過度な権限が長期間続くことを防ぐ仕組みが整えられています。

書面保管証書遺言の新設

今回の民法改正では、遺言制度にも大きな変更が加えられました。
その中心となるのが、新しい遺言方式「書面保管証書遺言」の創設です。
これにより、遺言の作成・保管がこれまでよりも安全で利用しやすいものになりました。

新しい遺言方式「書面保管証書遺言」とは

書面保管証書遺言は、遺言書を法務局で保管することを前提とした新しい遺言方式です。
通称で「デジタル遺言」とも呼ばれ、以下のような特徴があります。

  • キーボード入力や音声入力で作成可能
    キーボードや音声入力で全文を作成できるため、筆記が難しい方でも作成・修正が可能です。
  • 押印が不要
    データで完結させるため、印鑑を押す必要がなくなります(電子署名などの代替措置は必要)。
  • 法務局へ行かずに手続き可能
    スマホやパソコンを使い、オンライン上で法務局への保管申請を行うことができます。
  • 家庭裁判所の「検認」が不要
    法務局で安全にデータ管理されるため、紛失や改ざんのリスクがなく、死後の面倒な検認手続きも免除されます。

書面保管証書遺言の作成方法

書面保管証書遺言は、次のような手順で作成します。

  1. 遺言書の全文を記載した証書を作成する
    全文を記載した書面を用意します。パソコンで作成した文書で構いません。
  2. 遺言者が署名する、あるいは署名の代わりとなる措置をとる
    作成した遺言書に署名、あるいは今後法務省令で定められる代替措置を行います。
  3. 法務局で遺言の全文を口述する
    遺言者は、法務局の遺言書保管官の前で、遺言の全文を読み上げます。
    これは、遺言が本人の意思に基づくものであることを確認するための手続です。
    なお、ウェブ会議システム等を利用した非対面(オンライン)での口述も認められる予定です。
  4. 法務局が遺言書を保管する
    口述が終わると、法務局が遺言書を正式に保管します。
    法務局に保管されることで、初めて遺言としての効力を持ちます。
    保管された遺言書は、遺言者の死亡後、相続人などが閲覧や証明書の交付を受けることができます。

法務局での保管制度とオンライン申請

今回の改正では、遺言書の保管に関する手続が大幅に見直されました。
特に大きな変更点は、遺言書の保管申請をオンラインで行えるようになったことです。
これにより、法務局に出向くことが難しい人でも利用しやすくなり、遺言制度全体がより身近なものになりました。

押印要件の廃止

今回の改正では、遺言制度全体に関わる大きな変更として、自筆証書遺言や秘密証書遺言などにおける押印の要件が廃止されました。
書面保管証書遺言も同様に押印は不要です。

特別な方法による遺言の見直し

通常の方式だけでなく、緊急時に行う特別な方式の遺言についても改正が行われました。
たとえば、

  • 死が迫っている状況で行う遺言
  • 船舶の遭難時に行う遺言

といった、通常の手続が取れない場面で認められる方式です。

今回の改正では、遺言の内容を録音・録画して残す方法が新たに認められました。
1名以上の証人の前で口頭で遺言を述べ、その状況を録音・録画することで遺言が成立します。
船舶遭難時は、単独でも口頭で遺言を述べる様子を録音・録画し、PC等でそのデータを特定の者に送信することで遺言が成立します。

任意後見契約に関する見直し

判断能力が低下したときに備える方法として、本人が元気なうちに後見人を選んでおく「任意後見契約」があります。
今回の改正では、この任意後見制度についても、より使いやすく、本人の意思を反映しやすい仕組みへと見直しが行われました。

改正のポイントは大きく分けて次の4つです。

  • 任意後見開始の審判の創設
  • 任意後見監督人の選任要件の緩和
  • 複数の任意後見契約がある場合の効力発生順序の合意
  • 任意後見と補助制度の併存が可能に

任意後見開始の審判の創設と任意後見監督人の選任要件の緩和

従来の任意後見制度では、任意後見監督人が選任された時点で契約が効力を生じるという仕組みになっていました。
しかし、本来は別々に判断すべき「任意後見を開始すべきかどうか」「監督人を置く必要があるかどうか」が一体化していたため、次のような問題が生じていました。

  • 任意後見を開始したいのに、監督人を置くほどではない → 開始できない
    本人の判断能力は低下しているものの、監督人を置く必要がないケースでは、任意後見そのものが開始できないという矛盾がありました。
  • 逆に、開始したい場合は必ず監督人を置く必要がある
    監督人が不要なケースでも、開始のために必ず選任しなければならず、費用負担や手続負担が大きいという問題もありました。

こうした課題を解消するため、今回の改正では「任意後見開始の審判」が新設されました。
これにより、

  • 任意後見を開始するかどうかの判断(開始審判)
  • 監督人を置くかどうかの判断(監督人選任)

が明確に分離されました。
その結果、

  • 任意後見を開始するかどうかは開始審判で判断
  • 監督人が不要な場合は選任しない運用が可能

となり、本人の状況に応じた柔軟な制度運用ができるようになりました。

また、本人が公正証書で指定した人が開始の申立てを行えるようになり、本人の意思をより反映しやすい仕組みになっています。

複数の任意後見契約の効力発生順序の合意

任意後見契約は複数結ぶことも可能ですが、従来はどの契約が優先されるか明確ではありませんでした。
今回の改正により、複数の任意後見契約がある場合に、どの契約から効力を発生させるかを当事者間で合意できるようになりました。
たとえば、

  • 第1契約の受任者が辞任したら第2契約を発動
  • 家族と専門職の契約を段階的に発動させる

といった柔軟な設計が可能になります。

任意後見と補助制度の併存が可能に

従来は、本人が補助開始の審判などを受けると、任意後見契約は終了する扱いでした。
しかし、本人の状況によっては、任意後見と補助制度を併用した方が適切な場合もあります。
今回の改正では、補助制度を利用していても任意後見契約が終了しないように見直されました。
これにより、本人の状態に応じて、

  • 任意後見人
  • 補助人
  • 特定補助人

などを組み合わせた、よりきめ細かな支援が可能になります。

おわりに

今回の民法改正は、判断能力が不十分になった人を支える仕組みや、人生の最終局面に備える制度を大きく見直すものとなりました。
成年後見制度の再構築、遺言制度の拡充、任意後見制度の改善――いずれも、本人の意思をより尊重し、状況に応じた柔軟な支援を可能にすることを目的としています。

今回の改正民法が施行されるまでの間に省令や運用指針が整備され、実務上の課題がどのように解消されていくのか注目されます。
制度の内容を正しく理解し、早めに備えておくことが、本人にとっても家族にとっても大きな安心につながります。
本記事が、その第一歩としてお役に立てば幸いです。

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