成年後見制度が大きく変わる?補助制度への一本化とその影響をわかりやすく解説

法律知識

成年後見制度は、認知症や障害などにより判断能力が不十分になった人を支えるための重要な仕組みです。
しかし、制度が始まって20年以上が経ち、社会の変化や利用者のニーズに制度が十分に対応できていないという指摘が増えてきました。
こうした状況を受け、法務省では成年後見制度の大幅な見直し案を取りまとめ、国会に法案として提出する予定とされています。成立すれば、制度の根本的な構造が変わる可能性があり、利用者・家族・支援者・専門職にとって大きな影響をもたらします。
本記事では、

  • 現行制度のどこに問題があるのか
  • 改正案では何がどう変わるのか
  • そして、改正案に残る課題や懸念点は何か

を、できるだけ分かりやすく整理していきます。

現行の成年後見制度の仕組みと問題点

成年後見制度は、判断能力が低下した方を法律面・生活面で支援するための制度で、現在は「後見・保佐・補助」という三つの類型に分かれています。これは、本人の判断能力の程度に応じて利用できる制度が決まる仕組みです。

  • 判断能力を欠く常況 → 後見
  • 著しく不十分 → 保佐
  • 不十分 → 補助

ここでは、現行制度の構造と、そこから生じている主な問題点を整理します。

現行制度の仕組み:三類型の特徴

後見(最も重い類型)
  • 判断能力が欠けているのが通常の状態の場合
  • 本人が単独で行った日常生活に関する行為以外の法律行為は取り消される可能性あり
  • 日常生活に関する行為以外の法律行為について後見人による取消が可能
  • 本人の財産に関する全ての法律行為について後見人による代理が可能
保佐(中間の類型)
  • 判断能力が著しく不十分な場合
  • 重要な財産行為について保佐人の同意が必要
  • 重要な財産行為について保佐人による取消が可能
  • 家庭裁判所の審判による特定の法律行為について保佐人による代理が可能
補助(最も軽い類型)
  • 判断能力が不十分な場合
  • 家庭裁判所の審判による特定の法律行為について補助人の同意が必要
  • 家庭裁判所の審判による特定の法律行為について補助人による取消が可能
  • 家庭裁判所の審判による特定の法律行為について補助人による代理が可能

現行制度の主な問題点

一度利用すると「やめられない/やめにくい」制度設計

現行制度では、後見・保佐・補助のいずれも、本人の判断能力が回復しない限り終了できないという構造になっています。
例えば、

  • 遺産分割のために一時的に後見を利用したい
  • 一定期間だけ財産管理を任せたい

といったニーズがあっても、制度上は“回復”が要件のため、利用をやめることが難しいのです。

後見人の権限が強すぎ、本人の意思が軽視されやすい

後見制度では、後見人に

  • 包括的代理権
  • 包括的取消権

が付与されます。
これは本人の保護を目的としたものですが、実際は本人の意思決定の余地が必要以上に狭くなるという問題が生じています。

  • 本人が望んでいる買い物ができない
  • 本人の希望より「安全優先」で判断される

といったご家族の声を聞くことがあります。

本人の状況変化に応じた後見人の交代が難しい

後見人の交代(解任)は、現行法では

  • 不正行為
  • 著しい不行跡
  • その他後見の任務に適しない事由

があった場合にしか認められません。
そのため、

  • 本人と後見人の相性が悪い
  • 本人の生活状況が変わった
  • 専門職後見人から親族後見人に切り替えたい

といった“本人の利益に基づく交代”が柔軟にできないという問題があります。

任意後見制度が十分に活用されていない

任意後見制度は「元気なうちに将来の支援を決めておく」制度ですが、

  • 監督人選任の申立てが遅れる
  • 家族が制度を理解していない

といった理由から、適切なタイミングで任意後見監督人の選任が申立てられていないケースがあるようです。

現行制度は“本人中心”とは言い難い構造

現行の成年後見制度は、本人の保護を目的として整備されたものですが、

  • 制度の硬直性
  • 包括代理権の強さ
  • 本人の意思尊重の弱さ
  • 柔軟な見直しの困難さ

といった問題により、本人の意思に沿っていないという状況になることがあります。

改正案の全体像:何がどう変わるのか

今回の見直し案は、成年後見制度が始まって以来とも言える大きな構造改革です。特に大きいのは、後見・保佐・補助という三つの類型を廃止し、補助制度に一本化するという点です。
「判断能力の程度で制度が決まる」仕組みから、必要な支援内容に応じて制度を組み立てる仕組みへ大きく舵を切ることになります。
ここでは、改正案のポイントを分かりやすく整理します。

三類型(後見・保佐・補助)の廃止 → 補助制度に一本化

現行制度では、判断能力の程度によって、「後見」「保佐」「補助」の三つに分かれていました。
しかし改正案では、これらをすべて廃止し、「補助」だけを残して一本化します。

一本化の理由
  • 判断能力の程度を厳密に区分することが難しい
  • 本人の状態に合わない制度が選ばれることがある
  • 後見の包括代理権が強すぎる
  • 本人の意思尊重が十分に反映されない
一本化後のイメージ

「補助」という枠組みの中で、

  • 同意権
  • 取消権
  • 代理権

を必要な範囲だけ個別に付与する方式に変わります。

補助開始の要件が柔軟に

現行制度では、「後見 → 判断能力を欠く常況」「保佐 → 著しく不十分」「補助 → 不十分」と、判断能力の程度が厳密に求められていました。
改正案では、「精神上の理由で事理弁識能力が不十分である」という比較的広い要件で補助開始が可能になります。
本人以外の申立てには本人同意が必要ですが、意思表示ができない場合は例外とされます。

補助人の権限を“必要な分だけ”個別に付与

改正案の中心はここです。
補助人に付与できる権限は次の3種類です。

同意権(+取消権)

特定の行為について、補助人の同意が必要になることになります。
同意がない場合は取り消し可能です。
対象行為は、

  • 預貯金の出し入れ
  • 不動産の売買
  • 借金・保証
  • 相続の承認・放棄

など、重要な財産行為が中心になります。

代理権

特定の法律行為について、補助人が代理できるようになります。

特定補助人制度(取消権+保存行為+意思表示受領)

特定補助人制度は、今回の改正案の中でも“重めの保護”を担当する仕組みです。
イメージとしては、「通常の補助人より一歩踏み込んで本人を守る役割」を担う存在です。
ただし、現行の「後見人」のように包括的に何でもできるわけではありません。
あくまで、必要な範囲に限って強めの権限が与えられるという点がポイントです。

  • 取消権:本人が判断能力の低下により不利な契約をしてしまった場合、特定補助人がその契約を取り消すことができます。
  • 保存行為:保存行為とは、本人の財産が損なわれないように最低限必要な行為のことです。
  • 意思表示の受領:特定補助人は、本人に届く重要な通知を代わりに受け取ることができます。本人が通知を理解できない場合、「気づかないうちに不利益が発生する」ことがあります。それを防ぐための仕組みです。
包括代理権は廃止

現行の後見制度にあった「本人の財産に関する全ての法律行為について代理できる」という包括代理権は廃止されます。

補助の終了・変更が柔軟に

現行制度では「判断能力が回復しない限り終了できない」構造でしたが、改正案では次のように変わります。

終了できるケースが拡大
  • 補助開始の原因が消滅したとき
  • 補助人の権限(同意・代理・取消)が不要になったとき
裁判所が職権で見直し可能

補助人の年次報告を受けて、裁判所が職権で審判を変更・終了できる仕組みが導入されます。

本人の意思尊重が明文化される

補助人は、

  • 本人に情報提供し
  • 本人の意向を把握し
  • その意向を尊重し
  • 心身の状態・生活状況に配慮する

という義務を負います。

任意後見制度の見直し

任意後見制度もあわせて見直されます。

  • 不開始の合意(予備的受任者制度):「先に契約した任意後見人が死亡するまでは開始しない」などの合意が可能に。
  • 任意後見監督人の選任基準:本人の意見・心身状態・利害関係などを考慮。
  • 補助制度との関係整理:任意後見契約がある場合でも、本人の状況に応じて補助開始の審判が可能となるなど、両制度の関係が整理されます。

補助制度は“本人の意思を中心に”再設計される

今回の改正案のキーワードは、「一本化」「個別化」「柔軟化」「意思尊重」の4つです。

  • 三類型を廃止し、補助に一本化
  • 権限は必要な分だけ個別に付与
  • 終了・変更が柔軟に
  • 本人の意思を尊重する義務を明文化

現行制度の“硬直性”を大きく見直し、本人の意思を中心に据えた制度へと生まれ変わる方向性が示されています。

改正案の課題・懸念点

成年後見制度の見直し案は、本人の意思尊重を中心に据えた大きな前進と評価されています。一方で、制度が大きく変わるからこそ、いくつかの課題や心配な点が予想されます。

「事理弁識能力を欠く常況」の判断が依然として難しい

改正案では、後見・保佐・補助の三類型が廃止される一方で、特定補助人を付けるかどうかの判断に「事理弁識能力を欠く常況」が残ります。
民法改正に関する要綱(案)で「社会生活上、人が通常経験する事務について、その内容を理解し、考えられる解決の利害得失を検討して、態度を決定することができる可能性がないことがほとんど普通のありさまであるもの」と整理されましたが、家庭裁判所や医師の判断に委ねられる部分が大きいことに懸念があります。

権限の“個別化”による複雑さと漏れのリスク

改正案の大きな特徴は、包括代理権を廃止し、必要な権限だけ個別に付与する方式に変わることです。
これは本人の権利制限を最小限にするという意味では大きな前進ですが、次のような懸念があります。

  • どの行為に同意権・取消権・代理権を付けるべきか判断が難しい
  • 審判で指定されていない行為が後から必要になる可能性がある
  • 権限の“漏れ”があると、本人の生活に支障が出る
  • 家庭裁判所の審判が増え、手続が煩雑になる

家庭裁判所の負担増と審判の遅延リスク

権限を個別に付与する方式に変わることで、家庭裁判所が扱う審判の数が増えることが予想されます。

  • 同意権付与
  • 代理権付与
  • 特定補助人付与
  • 権限の追加・変更・取消
  • 年次報告のチェック
  • 職権での見直し

これらが積み重なると、審判に時間がかかり、制度利用の開始が遅れるというリスクがあります。

まとめ

成年後見制度の見直し案は、これまでの「後見・保佐・補助」という三つの枠組みを大きく見直し、本人の意思を中心に据えた柔軟な制度へ転換するという、大きな方向性を示しています。
現行制度では、

  • 一度利用するとやめにくい
  • 後見人の権限が強すぎる
  • 本人の意思が十分に反映されない

といった課題がありました。
改正案では、

  • 補助制度への一本化
  • 権限の個別付与
  • 本人の意思尊重の明文化
  • 終了・変更の柔軟化

など、これらの課題に応える仕組みが整えられています。
一方で、

  • 権限の個別化による複雑さ
  • 家庭裁判所の負担増

といった懸念も残ります。

成年後見制度は、誰にとっても“いつか関わるかもしれない制度”です。
国会へ提出される予定の法案の動向を注視しつつ、制度がどのように変わるのか、そして自分や家族にとってどのような選択肢があるのかを、早めに知っておくことが大切だと感じています。

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