働き方が多様化する中、労働安全衛生法が現場の実態に合わせて見直されています。
2025年改正では、個人事業者への安全対策の拡大やストレスチェック制度の強化など、働く人の安全と健康に関わる重要な変更が盛り込まれました。
本記事では、改正のポイントを一般の方にもわかりやすく整理し、個人事業者や企業が知っておきたい点をまとめて解説します
はじめに
近年、働き方は大きく変化しています。会社に所属して働く人だけでなく、フリーランスや副業として現場に入る人、高齢になっても働き続ける人など、さまざまな立場の人が同じ場所で仕事をする場面が増えています。
こうした変化により、安全や健康に関する課題も多様化し、従来の仕組みだけでは十分に対応しきれない状況が生まれてきました。
このような背景を踏まえ、労働安全衛生法は現場の実態に合わせて見直しが進められています。2025年の改正では、個人事業者への安全対策の拡大やメンタルヘルス対策の強化など、働く人の安全と健康を守るための仕組みがより実態に即した形へと整備されました。
労働安全衛生法とは
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を守るために定められた法律です。
労働災害や健康障害を防ぎ、安心して働ける環境をつくることを目的として、事業者が講じるべき安全対策や健康管理のルールを定めています。
ここでいう「労働者」とは、事業者に使用され賃金を支払われる者(労働基準法の労働者)を指します。正社員、契約社員、パート・アルバイト、派遣労働者などが該当します。一方、フリーランスや一人親方などの個人事業者は、法律上は労働者には含まれません。
この法律では、機械設備の安全確保、化学物質の管理、作業環境の整備、健康診断の実施、メンタルヘルス対策など、幅広い分野にわたって事業者の責務が規定されています。
働き方が多様化する中、従来の「労働者」を中心とした制度だけでは対応しきれない場面も増えており、今回の改正はその課題に応えるものです。
今回の改正のポイント
2025年の労働安全衛生法改正は、働き方の変化に合わせて安全衛生の仕組みを見直す大きなタイミングとなりました。特に、従来の枠組みでは十分に対応できなかった部分が補われた点が特徴です。
- 個人事業者の保護拡大
労働者を中心に構築されていた安全衛生の仕組みが、現場で働く個人事業者にも一部適用されるようになります。混在作業場所での安全対策や、発注者の安全配慮の範囲が広がるなど、現場のリスクに応じた内容が整備されました。 - メンタルヘルス対策の強化
ストレスチェック制度の対象が拡大され、これまで努力義務だった50人未満の事業場でも実施が義務化されます。働く人の心の健康を守るための仕組みが強化されます。 - 化学物質管理の強化
化学物質の危険性・有害性に関する情報提供のルールが厳格化され、違反に対する罰則も新設されました。化学物質による健康障害を防ぐための管理体制が強化されます。 - 機械災害防止の促進
ボイラーやクレーンなどの検査体制が見直され、民間の登録機関が審査・検査を担える範囲が拡大されます。機械による事故を防ぐための仕組みがより確実なものになります。 - 高齢者の安全対策の推進
高齢者の就労が増える中、年齢に応じた安全対策を進めるための制度整備が行われています。転倒や体力負荷など、高齢者特有のリスクに対応することが目的です。
改正が働き方に与える影響
今回の改正は、働き方の多様化に合わせて安全衛生の仕組みをアップデートするものです。現場では、労働者と個人事業者が同じ空間で働く場面が増えており、より幅広い「働く人」を視野に入れた安全衛生管理が求められるようになりました。
対象となる人の範囲が広がる
混在作業では、個人事業者も安全対策の対象となり、発注者や元請けが配慮すべき範囲が広がります。
ストレスチェックがより身近に
50人未満の事業場でもストレスチェックが義務化され、心の不調に気づきやすい環境が整備されます。
安全対策の強化
化学物質管理や機械災害防止の仕組みが強化され、働く人が安心して作業できる環境づくりが進みます。
高齢者の労働災害防止の推進
国が「高年齢者の労働災害防止のための指針」を公表し、事業者は高齢者の特性に配慮した安全対策を進めることが求められます。
個人事業者に求められる具体的な義務
個人事業者にも安全衛生に関する一定のルールが適用されるようになりました。現場で労働者と同じ場所で作業する場合、次のような対策が求められます。
混在作業場での安全対策の対象に含まれる
複数の事業者が同じ場所で作業する「混在作業」では、個人事業者も安全対策の対象になります。発注者や元請けは、個人事業者が安全に作業できるよう配慮する必要があり、個人事業者自身も現場のルールを理解し、危険を避ける行動が求められます。
安全装置が備わっていない機械などの使用禁止
構造規格を満たさない機械や、安全装置が設けられていない機械を使用することは認められません。危険な機械を使わないことが、個人事業者自身の安全確保につながります。
特定の機械に対する定期自主検査の実施
ボイラーやクレーンなど、一定の機械を使用する場合は、個人事業者自身が定期的に自主検査を行い、異常がないか確認する必要があります。安全な状態で機械を使用するための基本的な取り組みです。
危険・有害な業務に従事する際の安全衛生教育の受講
特定の危険・有害業務に従事する場合は、労働者と同様に安全衛生教育を受講することが求められます。
企業が対応すべき実務ポイント
今回の改正では、個人事業者への義務付けと並行して、企業(事業者)側にも安全衛生管理の強化が求められています。労働者だけでなく、個人事業者や高齢者など、多様な働く人が安全に働ける環境を整えるため、企業が対応すべきポイントを整理します。
混在作業場での元方事業者の措置義務の拡大
混在作業場所では、元方事業者が行うべき安全対策の対象が、労働者だけでなく個人事業者等にも拡大されました。
元方事業者は、現場全体の災害防止のために、次のような措置を講じる必要があります。
- 作業手順や危険情報の共有
- 関係者間の連絡調整
- 保護具の使用や安全ルールの徹底
- 機械・建築物を貸与する場合の安全確保
機械災害防止のための制度見直し
特定機械(ボイラー、クレーン等)の製造許可・検査制度が見直され、登録を受けた民間機関が審査・検査を行えるようになりました。
高年齢労働者の労働災害防止
高年齢労働者の特性に配慮した安全対策が、事業者の努力義務となりました。
- 転倒リスクの低減等、身体機能の低下による労働災害を防止するための措置
- 作業負荷や作業内容の調整
- 国が定める指針に基づく取り組み
治療と仕事の両立支援
治療と仕事の両立を支援するための措置が、事業者の努力義務となりました。
化学物質管理の強化
化学物質による健康障害防止対策等のルール・罰則が新設されました。
- 危険性及び有害性情報の通知(SDS:安全データシートの交付)の義務違反に対する罰則の新設
(公布後5年以内に政令で定める日から施行) - 通知事項を変更した場合の再通知の義務化(公布後5年以内に政令で定める日から施行)
- 営業秘密成分の代替化学名通知が可能に
- 個人ばく露測定の実施(有資格者による)の義務化(令和8年10月1日施行)
作業場所管理事業者への連絡調整措置の義務付け(令和9年4月1日施行)
作業場所を管理する事業者は、その場所で危険・有害な業務が行われる場合、災害防止のために必要な連絡調整を行う義務があります。
ストレスチェック義務化の拡大(公布後3年以内に政令で定める日から施行)
常用労働者数50人未満の事業場でも、ストレスチェックと高ストレス者への面接指導が義務化されます。企業は以下の準備が必要です。
- ストレスチェック体制の整備(義務)
- 高ストレス者への医師面接指導の実施(義務)
- 集団分析による職場環境改善(努力義務)
まとめ
今回の労働安全衛生法の改正は、従来の「労働者中心の安全衛生」から、現場で働くすべての人を守る安全衛生へと大きく進化したものです。これまで制度の枠に十分収まっていなかった人々を含め、より広い範囲で安全と健康を確保する仕組みが整備されました。
改正がもたらす変化は次の3点に集約できます。
- 現場全体の安全性の底上げ
- 働く人の心身の健康を守る仕組みの拡充
- 多様な働き方への対応
今回の改正をきっかけに、現場の安全衛生を見直すことで、誰もが安心して働ける職場づくりが進むことを期待しています。
