そもそも遺言書を書くべきなのか、書かなくてもいいのか、よく判らないと思います。
「もめる様な財産ないし!!」ってのもよく聞く話です。
今回は、書いた方がいいのか、そんなことないのか…その辺を整理してみようと思います。
どれくらいの人が遺言書を書いてるの?
日本財団が2020年に全国の60~79歳の男女を対象にした調査で、遺言書を作成している人は3.4%でした。同じ調査で、遺言書を書かなかった場合「トラブルが起こる心配はない」と回答した人が62%だったので、4割近くの方が相続に不安を抱えながら遺言書を書いていない、または書けていないということになります。
実際、相続トラブルの事例が沢山あるのも事実です。参考までに実務研修で教わった事例を紹介します。
トラブル事例《配偶者と兄弟姉妹の相続》
とあるご夫婦の旦那さんが亡くなられました。
財産は、旦那さん名義の家とわずかな預貯金。持ち家があるので、年金でつつましく暮らしておられたそうです。
このご夫婦に子供さんはおらず、旦那さんのご両親もすでに他界。法定相続人は、配偶者である奥さんと旦那さんのご兄弟となりました。
旦那さんのご兄弟の主張はこうです。
「実際に住む訳ではない家の共有持分はいらないので、代わりに持分相当の現金で相続したい」
奥さんは住み慣れた家での生活をご希望なので、預貯金から旦那さんのご兄弟への相続分を割り当てることになるのですが、預貯金が足りなかったそうです。仕方なく家を売却して、そのお金で旦那さんのご兄弟の相続分を捻出。ご自身は賃貸アパートで暮らすことになったそうです。
実はこのケース、旦那さんが「奥さんに全財産を相続させる」と一言遺言書に残していれば、奥さんは住み慣れたご自宅で今も生活できていたのです。
ちょっと詳しい方は、遺留分(※)はどうなるの?って思われるかもしれませんが、遺留分が認められるのは配偶者と直系卑属(子、孫)、直系尊属(父母、祖父母)で兄弟姉妹には認められないのです。
旦那さん、こうなることをご存じなかったのだと思います。ちょっと悔やまれます。
※遺留分
相続において法定相続人が最低限受け取る権利を持つ財産の割合のことを指します。
被相続人が遺言で財産を自由に処分した場合でも、一部の相続人が不当に財産を受け取れない状況を防ぐための制度です。
遺言書の目的って?
では、最初に遺言書の目的について整理してみましょう。
- 目的① 法定相続分よりも優先して財産を分配する
民法で規定された配分と異なる配分を指定することができます。
ただし、被相続人の配偶者、直系卑属(子、孫)、直系尊属(父母、祖父母)には、遺留分が認められるため注意が必要です。 - 目的② 相続人同士のトラブルを防止する
遺言書で遺産分割の道筋を示すことでトラブルを回避する可能性を高めることができます。
法定相続人が、配偶者と被相続人の兄弟姉妹のパターンは非常にもめることが多いそうです。
配偶者に譲ってあげればいいのに、とも思いますが、いざ”相続できる”となると欲が出てくるのかもしれません… - 目的③ 法定相続人ではない人に財産を渡す
法定相続人以外に財産を渡す場合、遺言に残す必要があります。 - 目的④ 生前にお世話になった人への感謝の気持ちを伝える
遺言書には、付言事項としてメッセージを残すことができます。
法的効力を持たない記載事項ですが、気持ちや考えを自由に残すことができます。
具体的にどんな人が遺言書を書いた方がいいのか?
では、整理した遺言書の目的ごとに具体的に当てはまるケースをピックアップしてみようと思います。
- 目的①に当てはまるケース
・介護など特別に世話をしてくれた家族に他の家族より多くの財産を渡したい場合
・経済的に困窮していたり障害がある家族に生活費としての現金や家屋を優先して渡したい場合
・家業や事業を継いでくれる家族に事業に必要な財産を渡したい場合 - 目的②に当てはまるケース
・不動産の分割がうまくできない場合(現物で相続したい人と現金化を望む人がいるなど)
・相続人間で仲が悪い場合(遺産分割協議でもめること必至です)
・配偶者と被相続人の兄弟姉妹(配偶者からは義理の兄弟姉妹にあたる)間で遺産分割協議をすることになる場合
・再婚歴があり、前婚の時の子と後婚の配偶者・子の間で遺産分割協議をすることになる場合 - 目的③に当てはまるケース
・老後のお世話をしてくれたヘルパーさんに財産を贈りたい場合
・慈善団体などの法人に寄付をしたい場合
・法定相続人がいない人の場合(遺言がない場合、財産は国に引き継がれます) - 目的④に当てはまるケース
これは全ての人が当てはまりますね。ご遺族に感謝の気持ちを残すのも素敵なことだと思います。
余談ですが、最近ではペットについて書き残す方もいらっしゃるようです。
ペットも財産として扱われますので、遺言でお世話をお願いすることが可能です。
ペットだけを渡すケース(ペットそのものの遺贈)やペットとお世話にかかる費用をセットで渡すケース(ペットの世話という負担付き遺贈)などです。
ただ、遺贈を受ける方が相続を放棄する可能性があるので注意してください。
また、ペットに対して財産を贈る遺言は無効になりますので、合わせてご注意ください。